藤の木のお話/日本の昔話・新潟県三条市

2020.6 切刻亭作 弥彦山と藤

藤の木のお話/新潟県三条市の昔話(創作)



昔々のそのまた昔。

新潟県三条市には、信濃川と五十嵐川という
二つの大きな川が流れております。

この2つの川の流れは現在と違っておりまして、
井栗村は昔、この2つの大きな川に挟まれており、
一面沼ばかりが広がる土地でした。


ある時、南のお山の方に住んでいた人々が
やってきて、この沼を開拓して
田んぼを作りました。

人々やその子孫たちの手によって
田んぼは段々広くなり、

今ここには、一面の豊かな田んぼが
広がっております。



最初にやってきた人々は、
ここが豊かな土地になるようにと
山から持ってきた1本の藤の木を植えました。

この藤の木を村の人々は大事に育て、
その子もその孫も代々藤の木を
大事に致しました。




さてここで、この土地の説明を致しましょう。

2つ大きな川に挟まれたこの土地は、
毎年毎年洪水に悩まされる土地でございました。


たとえば、春。雪解けの水が田んぼ一面に広がり、
1.5mぐらいの水位があったそうで、

堤防のような高いところから見れば、
見渡す限りの湖のように見えたそうです。


もちろん、大雨になれば川が氾濫・決壊し、
田んぼに水が広がることがしばしば。



水門や用水路を設置しようと
お上に働きかけましたが、
こちらに水門を建てると
今度はあちらの村が水不足や洪水になる…

など、周りの村々との兼ね合いもあり、
なかなかすぐに改善は出来なかったそうです。

そして毎年植えた稲の3~4割は
水害にやられてしまい、
収穫できなかったそうです。


稲刈り中も、田んぼが水につかってしまい、
何日も水が引かない時は、
船を田んぼに浮かべ、人々は腰までつかって
手で1つ1つ刈り取った稲を船に乗せては
稲干し場まで送り、

という大変な苦労を繰り替えしていたそうです。


農業が中心でその他目立った特産物もないこの村は、
それでも農業を日々必死にやることが
生きていくのに一番必要なことでございました。





そんな水害に悩まれる村の人々にとって、

力強く枝やツタを伸ばす生命力の強さ、
いつも小鳥たちが集って美しく鳴く癒しの場所、

豊作の予祝を応援するように
5月の田植えの時期に見事な花を咲かせるこの藤は、
村の人々にとっての心の支えでございました。

人々は、藤を植えてくれた自分たちの祖先へ
感謝して、藤を日々大切に育て続けました。




いつしか大きく成長した藤の木は
村の守り神として大切に扱われるようになり、

「藤の木権現」

と、根本に小さな社も建てられ、
大事にお祭りされるようになりました。




しかし、ある日。
大きく成長しすぎた藤に
負担がかかったのか、

根本の幹が折れ、
それから藤はやせ衰えてしまいました。

毎年咲かす見事な花もめっきり少なくなりました。


村の人々は忙しい農業の合間を縫って
代わる代わるお世話を致しましたが、

その甲斐むなしく、
とうとう藤の木は枯れてしまいまいした。

村の人々は泣く泣く、
藤の木を切り倒すことに致しました。





藤の木の根本を切り倒しておりますと、
根本からありがたいお札が
何枚も出て参りました。


それは京の都の神社のお札であったり、
またはお伊勢様のお札であったり、
山形の出羽三山・湯殿山のお札であったり、
日本各地のありがたいお札が
何枚も何枚も出て来たのです。



驚いた村人は、村と繋がりの深い
湯殿山のお社様へお伺いいたしました。

すると、越後の井栗村から
「おふじ」という美しい女性が
湯殿山の女人参詣所に毎年参拝に来ている、

と教えてもらったのです。
(昔、出羽三山は女人禁制のお山でした。)




村人たちは、これは藤の木が人間に化身して、
村のために毎年はるばる
日本各地へ参拝に行ってくれたのだ、

と、大変感激致しました。

2020.5 切刻亭作

そして古い藤の木の根本の一部を
そこへ埋めて祠を立て、
また新しい藤の木を植えて、
大切に育てることと致したのです。

藤の木が枯れることがあれば、
そのたびに藤の木を植え替え、
藤の木を代々村に受け継いで
大事に育てました。

そうして、この村に
藤の木を植えてくれた祖先とともに、
村をずっと見守り村の心の支えでいてくれる
藤の木への感謝を常に忘れませんでした。



大切にされて育った藤の木は、ある時代では、
田んぼ4、5反の広さにまでに成長し、
それはまるで藤の木が小さな森のようだった
と言います。


村人たちはそこでいつも雨宿りをしたり、
また、花の季節になると、
風流人や文人がそこへ集ったそうです。

今でもこの大きな藤の木は、
すぐ隣に植えてあるエノキの大木に
四方八方からからみついて
長い枝やツタをのびのび伸ばし、
5月には美しい花を咲かせております。





※この物語は架空の物語でございます。
 登場する人物・団体・名称・地名等、
 実在するものとは一切関係はございません。




物語の参考となった舞台





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参考文献

『井栗郷土誌資料集  第1集第2集






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